訓練生通信

 

(門司区猿喰ふれあい野菜市編、その1)

平成10年7月 Wendy21 米島健二

 ふれあい市は今とにかくアツイ。冷房無いし、屋根は半透明で太陽のおいしい所取りだし。
 岐津さんなんか、うちわを手に、扇いでいるのか、はたまた暑さに痙攣してるのか。かすかにパタパタしながら額に大粒の汗を浮かべ目を閉じて天上を仰ぐ姿は哄笑を誘う。
 僕たちは職親訓練なので、野菜が売れようが売れまいが一人一日千円貰える。交通費と昼食やジュース代で消えてしまうが、ふれあい市の売上から考えるとこれでも異様に高い日当だ。最近野菜を買っていくお客さんは一日十人以下。売上は三千円を下回る事も珍しくない。連日の暑さと慢性の品数不足が客離れの原因と僕たちは分析している。
 ── 最近の事件 ──
 ふれあい市によく顔を出す八百屋さん(ふれあい市で百円で仕入れ外で百五十円で売ったりしてる人)が、
「おーいS。おまえアトピーの薬いらんか?」
と声をかけてきて、僕の前で1チューブ1000円の中国製の塗り薬を5つ5千円分彼女に売りつけた。
 東京の弟さんがアトピーで悩んでいるから送ってやりたいと、Sさんは大喜びで買った。
 どう見ても100円ぐらいにしか見えなかったし、効能には「止痔」とか書いてあるし、いんちきじゃないかと僕は思った。一緒に仕事している果物屋さんも虫さされの薬やろとか言って返品するよう勧めたけれど、
「いい。お母さんに1個1500円で買わせるけ」
 まあSさん自身がが良いというのだからそれ以上言えなかったけど。
 このほかにSさんはデイケアの知り合いに1万円貸したりもしてる。
 僕が病気の時、世界が126倍輝いて見える時があった。人は皆優しくて親切で、神様をすぐ側に感じた。誰かを疑ったりする心が消えてしまう。(この全く逆の状態も経験したけど。)
 彼女は今そんな心理状態にあるのでは無いか? ちょっと心配しながら僕はSさんの観察を続けている。

 

(門司区猿喰ふれあい野菜市編、その2)

平成10年8月 Wendy21 米島健二

 先月号で暑い暑いと書いたせいか、今月は市場の半透明の天井にヨシズを敷いて頂いたり、訓練手当と別に交通費を頂いたりして、有難いけどちょっと恐縮しました。
 8月7日の新門司病院盆踊り大会で、ふれあい市のメンバーとして枝豆を売りました。デイケアのスタッフの方が湯がいてくれて僕たちは味見しただけだけど。2500円分仕入れ、売上は2900円。メンバーのジュース代にもならなかったけど楽しかった。
 ところで、3日前くらいに急に盆踊り大会で何か売ろうという話しになって、枝豆くらいしか思いつかなかったのだけど、病棟の患者さんに売ることは許可されませんでした。患者さんの中には枝豆の食べ方がわからない(さやごと食べる?)人もいるからと言うのがその理由だそうです。なんかバカにしているなあと思うのは僕だけでしょうか。枝豆の食べ方がわからない人は世間にもいる。けどそんな人でも1つ2つ食べてみたり他の人の食べ方を見たりすれば分かると思う。ましてそれが出来ない患者さんが一人ほったらかしで食べ歩くということは考えにくい(誰か介護がついてる筈)と思うのだけど……。いや、だから誰が悪いとか非難するつもりは無いのだけど、食べに来た患者さんに「売れんのよ」と言うのがちょっと心苦しかったわけです。
 ところで、Sさんの元旦那がデイケアに来るようになって、元夫婦が仲良く語り合う姿など見て、人間関係の奥の深さに僕などまだまだ修行が足りないなーと思うこの頃です。
 それから岐津さんと永田さんと井手さんがスナック通いにはまりそうです。中でも岐津さんは相当思い入れしてるようですが、なんだかとても心配です。

 

(門司区猿喰ふれあい野菜市編、その3)

平成10年9月 Wendy21 米島健二

 暑い夏もやっと終わり、過ごしやすくなりました。
 ふれあい市、今月の大事件といえば、本誌連載小説「真冬の鈴蘭」でおなじみのK氏に関する事ですが、まだショックが強すぎるので書けません。
 小事件。地元猿喰産「夢つくし」の新米が出ました。ふれあい市の売上高もおかげでグンと増えました。訓練生一同は片濱さんから皆2キロづつ無料で頂きました。僕も早速炊いてみたところ、キラキラ輝いて格別においしかった。他の訓練生やお客さんにも大好評です。皆さんも是非一度どうぞ。5キロで2000円とお安くなっています。精米機も店に据えられて、ますますおいしいお米が売れるので、実りの秋に嬉しい限りです。

 

 

(門司区猿喰ふれあい野菜市編、その4)

平成10年10月 Wendy21 米島健二

 新門司病院の榎本さんの紹介で、毎朝2時間、某銀行の掃除のアルバイトを始めました。ふれあい市の訓練だけでは運動不足なので適度なウォーミングアップになって心身共に快調です。ウエンディ21では来年10月、本部兼作業所を開所する予定です。アルバイトは資金のたしにもなるし、がんばろうと思います。
 ウエンディ21の中原会長がスーパーの掃除の仕事をやめてしまったので、代わりに僕が掃除のアルバイトをすることになったのですが、精神障害者でも機会さえあればちゃんと働けるという事を証明する為にも良い仕事をしていきたいと思います。中原さんは仕事をやめて少しうつになっていたそうですが、今はもう元気みたいです。彼女は根が明るいから大丈夫でしょう。
 岐津さんがいなくなり、今月から「メゾンソレイユ」の伊藤君が訓練生に加わりました。
 ふれあい市の新しいメンバーの平均値を出してみました。
 平均年齢33歳。平均身長162センチ。平均体重62kg。平均睡眠時間10時間。

 

 

(門司区猿喰ふれあい野菜市編、その5)

平成10年10月 Wendy21 米島健二

  さあ色々大変な事です。次から次に事件。今の時点では、どう対処して良いやら困っております。
 事件@ Nさんが入院?
 ふれあい市で最も積極的に仕事をこなし、おばちゃん達にも評価が高かったNさんが、勝手に薬を止めるなどして、状態が悪くなり、他のメンバーを非難叱責したりしだして、あげくに来なくなってしまいました。本誌では演歌のコーナーでおなじみのあの普段は穏やかなNさんです。変りに急遽、伊藤君や松本さんに出てもらう事になりましたが、Nさんに僕達が何をしてあげられるでしょうか? Nさんはその後、自宅で火事を起こし、とうとう入院という事になってしまいました。
 事件A Sさんがパート?
 一緒にふれあい市で商売をしていた果物屋さんが11月一杯で、門司港へ引っ越してしまいました。果物屋さんは、ただ果物を売るだけでなく、僕達の指導員としても活動してくださっていたのですが、諸々の事情で移転せざる得なくなってしまったのです。代わりに日曜日にメンバーのSさんがパートとして働いてみる事になったのですが、1日でご用済みとなってしまいました。
 事件B ふれあい市が無くなる?
 諸事情で、とうとう12月一杯で店を閉めることになりました。4月から9ヵ月間通った店なので名残惜しいです。新年から訓練生は近くの片濱さん所有のコンテナで訓練や作業をすることになりそうです。どんなことが出来るのか楽しみでもありますが……。
 そんなわけで、ふれあい市編は、今回で終了です。お読み頂き有難うございました。

 

 


(門司区猿喰コンテナ作業所編、その1)

平成11年3月 Wendy21 米島健二

 コンテナに移って最初の仕事は大豆の選別作業でした。大豆を一粒ずつ見ていって悪いのをよけるという作業です。簡単だけど根気と注意力が結構いります。
 続いて、つくね芋(山芋)の根切り作業。芋から出ているヒゲのような根をハサミで切っていきます。里芋の泥と皮を軍手で綺麗にする作業もしました。
 気候が春めいて来ると、畑の草取り。腰をおろしてゆっくりやると、それほどキツイ仕事ではありません。
 八朔をタワシでゴシゴシ洗うという楽しい作業もしました。
 授産作業は、今のところワープロ入力です。葛繽B設計事務所から仕事をもらっています。断酒会、作業療法協会からも仕事が入る予定です。
 農作業も授産作業も無い時は、メンバーで時間割を決めて、料理や勉強やレクレーション活動をやっています。ピア・カウンセリングの練習も始めました。
 3月から松本さんに講師になってもらって、アクリルタワシを作ることになっています。興味のある方はご一緒にどうぞ。
 なんだかめげそうな日々の事件は色々ありますが、負けないでゆっくり頑張ろうと思います。

 


(門司区猿喰コンテナ作業所編、その2)

平成11年6月号掲載予定 Wendy21 米島健二

 どうも今回がこの訓練生通信の最終回になるようです。  この6月で僕の3年間の職親訓練が終わるためです。  最後に退院してすぐに榎本さんに誘われて職親に通うことになったので、退院してからも3年経ったという事です。その前の4年間は毎年入院してましたから、この3年、どうにか再発せずにすんだのは職親のおかげが大きいかと思います。正直書くと何度か危ない時期がありました。ともかく廻りの方々の暖かい目とアドバイスのおかげです。この場を借りてお礼申しあげます。

 さて7月よりこのコンテナで障害者小規模作業所を開設します。僕と訓練生の山下さんがパソコン等の指導員をすることになりました。指導員とは言え、当事者の二人ですから、うまくやれるか不安もあります。

 「一人では出来ない事も、仲間が集まればやれることが一杯ある」。  そう信じて、色々と計画を立てて、順番にやって行こうと思います。  香川県高松市のフロムファイブという自助グループが、僕らと同じように、当事者で出来ることを模索しているとの事をエフ氏からの電子メールで知りました。  エフ氏とはメールをやり取りしながら、お互いに刺激しあっています。  身近で共に作業するメンバー以外に、全国にも仲間がいるんだと思って、元気が出ます。

 アイ君の行動が面白くて、マンガの題材に考えていたら本人にいやがられ、ボツになりました。

 断酒会の会報に載っている「断酒君」というマンガが自虐的で楽しかったので、真似して「分裂君」を作ろうとしての失敗でした。アイ君も自分を笑えるくらいのほうが僕はいいなと思ったのですが……。なかなか最中には笑うのが難しいようです(そのくせいつもニヤニヤしてるアイ君っていったい)。  さて次号からは、作業所通信になるかも知れません。お楽しみに。