カウンセリングのすすめ

第二回

よく似た経験をした仲間同士(=Peer)、悩みを相談しあう事をピア・カウンセリングと言うそうです。今号では、精神障害経験者にとってのピア・カウンセリングの効用と問題点を考えてみました。

Wendy21 米島健二

 精神障害の状態は、脳神経系と神経伝達物質等のバランスが悪くなって起こるという点で、麻薬やアルコールを多量に摂取した時と同じく、正常とは異なった意識状態にある。そんな意識下では、神や悪魔や天使や幽霊と出会ったり、超常現象を体験したという人も多いようだ。麻薬もアルコールも経験無い人には、睡眠中に悪夢を見ている時の意識状態をイメージしてみると少しは理解できる。周りの状況も自分のとる行動も、自分の意識支配下から逸脱している。制御不能だ。
 そういう精神障害経験を宗教的側面の解釈や現代常識から外れた論理のみで説明しようとする人が現代でも少なくないのは、問題があるのではないだろうか。
 なぜ妄想や幻覚を見るのか、幻聴がどうして聞こえるのか。「悪い霊魂に取りつかれた」「この壷を買いなさい」、などと嘘を言う人が世間には大勢いる。医者や学者は面倒くさがらずに患者に対してきちんと学術的な説明の努力をするべきだろう。あまり物質的になりすぎるのもどうかと思うが。非科学、非常識な人は多い。
   
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 同じ(よく似た)体験をした者同士、語り合って見ると、単純に「そうそう、あるある」と納得しあうだけでも不思議と楽になる。自分だけではないのだという安心感を得られる。自分の体験になお不安を覚えている人もいれば、常識的思考で、それを克服した人もいる。だけど何故?という理由を知っている人はそう多くない。経験だけで語るしか方法を持たない。
 ピア・カウンセリングは病気の治療ではない。自分の胃潰瘍が治った人が他人の胃潰瘍を治せるわけではない。だけどその人は治ったのだから私も同じふうに治療を受けてみよう、という意欲を高めるために有効だと思う。治療を受けるにあたってのその人の心構えや、治療以外のその人の生活態度など、参考になる点は少なくない。
   
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 向精神薬の副作用で悩み続ける人もいれば、それを慣れとして克服した人もいる。敬虔なカトリックもいれば、無神論者もいる。色んな仲間、多くの仲間がいれば、それだけ治癒の可能性は広がる。
 だけど間違った真似をすると治療の妨げになる可能性もあることを十分注意しなければならない。ある人が胃潰瘍を毎日ビールを1本飲む事で治したと自慢して言ったとしても、胃潰瘍を治したのはビールだなんて考えにくい。俺は薬やめたら良くなった、なんて言う人も怪しい。祈れば良くなると言うのも程度によるだろう。
 やはり自分の症状に関しては自分を治療してくれる医療スタッフに一番に相談するのが現代ではベストだろう。ピア・カウンセリングは、単なる患者同士の情報交換ではなく、当事者にしかわからない気持ちを分け合い、治すという意識を高めていく為のものであり、それ以上ではない。
 宇宙生命進化の歴史の頂上波をざんぶりと全身に被ったような体験を僕はした。と言ってもそんな仲間は珍しい。その時ぼくはシリウス星の超生命体と意識を交換させたり、ベルリンの壁をこぶしで叩き割ったりした。などと言うともっと稀有だ。
 そうした夢幻の精神の経験を、宗教体験と思う人もいれば、超能力と勘違いする人もいるし、色恋や身近な人間関係に結びつける人も多い。
   
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 入院中、目薬状の便通薬を眠前に12滴飲むか13滴飲むかという問題を朝から悩んでいる患者も少なくなかった。本人にとって最重要の問題なのである。
 例えば、朝、顔を洗って歯を磨くか、歯を磨いてから顔を洗うかという順番の解決は現代障害者の抱える大きな課題だが、そんな事で悩む事は無いと言いきる人も案外多い。歯を磨くと口や顎が汚れるから、その後で口をゆすぎながら顔を洗うほうが合理的だ。いや起きてまず顔を洗うほうが早く目が覚めて気持ち良い、etc。単純な問題ほど解答の種類は多いものだ。
   
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 ピア・カウンセリングを通じて広く色んな考え方がある事をまず知ってほしい。そして数ある解決手段の中で、最終的に判断し実行するのは自分自身の知見であることを忘れないようにしたい。